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創立記念式典学院長式辞

関東学院では、本年横浜バプテスト神学校創立より134周年を迎えました。10月6日(土)には、創立記念式典を関東学院大学の横浜・金沢八景キャンパスを開催いたしました。式典での小河陽学院長による式辞(全文)を掲載いたします。

小河陽学院長式辞

今日、我が関東学院は創立134周年を記念する日を迎えました。この記念すべき時をともに祝うための式典に、ご多忙の中を本日ご列席くださったご来賓の皆様をはじめ、学院関係者の方々、また教職員の方々には感謝申し上げます。

創立を記念するというとき、しばしば原点に、すなわち建学の精神に立ち返って、と言われますが、それは、過去への追憶とノスタルジーにふけることではない、と私は思います。私たちが過去を振り返る必要があるのは、「過去から何を学び、現在及び将来にどのように生かすか」という問いを問うことで、私たち自身の未来の可能態を想像し、模索することができ、そこから現在の課題、使命を明確にすることへと導かれるからです。

関東学院の創立は、1884年にアメリカの北部バプテストの宣教師であったA.A.ベンネットが横浜に開設した小さな神学校に始まります。その後、アメリカ・バプテスト宣教団は日本においては、教育が宣教のための土台づくり、土壌つくりになるとして、教育事業に力を入れます。そして、教養教育を基礎とする一般教育のための学校の設立へと動き、はじめは東京中学院(後の東京学院)のように、少数精鋭主義の学校に重きを置いたのですが、しばらくしてその方針を訂正するように、1917年には東京学院中学部を閉鎖して、1919年に中学関東学院を開設しました。その学校の開設と経営の責任を委ねられたのが坂田祐先生でした。その後、東京学院を合併して、関東学院の高等学部と神学部となりました。

さて、中学関東学院の第一回入学式で、初代院長として、坂田先生は校訓を訓示したのですが、それについて、『恩寵の生涯』という自伝の中で次のように記しておられます。

「私は式辞にキリスト教の精神を高調して建学の精神とし、これを具体的に表現するために『人になれ』と力説した。これは私が祈って、上から示された言葉であった。次に述べたことは、『奉仕せよ』であった。人のために、社会のために、国のために、人類のために尽くすことである、と力説した。爾来、キリスト教の精神をもって本学院建学の精神とし、これを具体的に表現するために『人になれ』『奉仕せよ』の2つの言葉を校訓として、機会あるごとに、これを強調して、今日に至ったのである。」

私たちが覚えておきたいことは、まず、関東学院を支えてきた人々の熱い想いと「中学関東学院」という学校の名前です。明治32年(1899年)に政府が文部省訓令第12号をもって私学であっても、中学校や高等学校が宗教を教えたり、宗教の儀式をやったりすることを禁じました。キリスト教を表面に掲げては学校が発展しないから、中学校としてのすべての特典を有する普通の中学校としてやつた方がよろしいのではないかとの意見があったなかで、坂田先生は、普通の中学校としての特典が得られなくともキリスト教を正面に掲げてやらなければ、真の教育ができないと主張して、関東学院中学校でなく中学関東学院として設立したのでした。

このように、坂田先生は関東学院の建学の精神はキリスト教の精神であって、それが関東学院の教育の基礎となっており、その精神の具体的表現が「人になれ 奉仕せよ」の校訓である、と述べられております。そして、86歳になった年の創立記念日の式辞ではこの校訓について次のように説明しておられます。すなわち、マタイ5章48節「あなたがたの天の父が完全であられるように、あなたがたも完全な者となりなさい」を指して、「この聖言は神様のようになれというのではなく、人として完全なものになれということです」と語り、ヨハネ15章12節と13節「私があなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。これが私の掟である。人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」を指して、これは奉仕の精神である、と語って、以上が校訓のよりどころだ、としました。

今のこの式典は聖書の教えを解説すべきときではありませんが、私が考えるに、これら関東学院の礎を築いた先達たちを突き動かした熱い想いは、聖書に語られたこの世界と人間に対する神の愛への想いであったのではないでしょうか? 聖書に、「神はその独り子をお与えになったほどに世を愛された」とあります。神が愛された世界であるからこそ、私たちもこの世界と人間を愛さねばならない、いや、愛することができるという思いが、先達たちを突き動かしていたのではないでしょうか。そして、多額の寄付をもってこうした先達たちの働きを支えたアメリカ人もまた日本人は自分たちの同胞兄弟という人類愛に動かされていたに違いありません。関東学院初代院長そして校訓の創唱者であった坂田先生もそのような先達のお一人ですが、先生が残した校訓についての先ほどの説明にあるように、わが関東学院の人間形成の教育、人になれの教育とは、人が神の完全を模範として完全であろうとすること、そして、本能的に自己中心的で利己的である私たち人間が、自分と同じように、いや自分の命を投出してまでも友人を愛することができるような人になることを願うことであるなら、そこには「これで充分」という限度はあり得ないでしょう。私たちに示された教育の到達目標、私たちに課せられた教育使命は決して自己満足して立ち止まることを許さない、絶えずその先を示される遠大にして恒久の目標であり使命であると言わねばなりません。

我が学院が受け継ぐプロテスタント精神は、個人の自由と尊厳の上に人間の決断と行動があることを前提とします。列強に追いつき追い越すための富国強兵の人材形成が過去のこととしても、現在のグローバル化が叫ばれる中で、本当に個性の育成としての人間形成が尊重されているでしょうか? 私たちの現代日本の昨今では「空気を読む」という雰囲気が暗黙のうちに集団への同調圧力となって個人の自由を阻害しています。私たちの教育が、会社の利益すなわち日本社会の利益という暗黙の了解のもとで、普遍的な人間性の向上というよりは、会社あるいは日本の国という偏狭な利益追求のために役立つ有用な人材育成となってはならないことは言うまでもありません。「奉仕せよ」は「世界への奉仕」であって、そのために一人ひとりの潜在能力を発掘し研鑽を積むことであり、集団である社会が、国家が個人の価値に優先することではありません。社会的ニーズに答えるというそれ自体正当化される要請に潜む危険性に私たちは絶えず注意を怠ってはならないでしょう。

坂田先生は学院長引退記念における最後の式辞で、今や学問は大いに進歩し、科学はいよいよ発達したけれども、科学がいかに進歩しても、科学とは全く次元を異にする、時間空間を超越する霊の世界があることを知らなければならないこと、科学は知識の所産であり、知識の外に、本能と意志と感情の世界があることを忘れてはならないことを述べられました。霊の世界は宗教の世界です。そして、宗教に基づく教育は我が国の国立公立の学校では国法の禁ずるところであり、これはわれわれの学校にだけ与えられた特権であること、わが学院の存在は、これなくしては、すなわち聖書の教えによらないではあり得ないこと、従ってこの特権は良く確保され常に強調されなければならない、そのように言われたのです。

宗教と言えば何か特殊なものに聞こえるかもしれませんが、普遍化して表現すれば、それは人間の存在と生活の価値や意味に関わるものと私は考えます。人間の尊厳、基本的人権、人間の生きる意味や生き甲斐、こうしたものは人が人として生きていく上でなくてならぬものですが、科学はこれらを教え確信させてくれません。V. フランクルが『意味への意志』という書物の中で書いていることですが、「ポリオワクチンを開発するための実験用の猿、そのために何度も注射をされる猿は、その苦しみの意味を理解することはできません。・・・猿の限定された知能では、その苦しみを理解することのできる唯一の世界である人間の世界に入ることは不可能です。・・・〔同じように人間にとっても〕人間の世界を超えた世界、人間の苦悩の究極的意味という問いが答えを見出す世界があるということは考えられないでしょうか」と問いかけています。関東学院の教育は、このような問題の存在と大切さに気づかせることなく若者を世の荒波に送り出してはならない、ということです。

先の世界大戦で、戦争が激しくなるに従い、軍部が学校教育にまで干渉し、神奈川県でも圧迫があって、キリスト教主義学校の学則からキリスト教主義を削除し、キリスト教の教育行事を止めるようにと干渉してきました。しかし、それでは学校の存立の意義がなくなるので、横浜市内の5つの学校の校長が固く結束してこれに反対し頑張り通し、ついに県当局を納得させて、学則からキリスト教主義を削除しないで、依然その行事を継続したのでした。

ここにも、私は歴史から学ぶことのできる重要な教えがあると思います。それは、一人ひとりの力は小さくても、一致協力して事に当たるとき、大きな働きをすることができる、ということです。まさしく、「3本の矢の教え」の歴史的事例です。

私たちは、私たちの学院の創立を記念するこのときにあたって、これからもどんな困難が私たちを待ち受けていようと、私たち一人ひとりの小さな、しかしぶれることのない信念を新たにして、これまでの歩みを続け、さらに前進させたいと思います。

関東学院学院長 小河陽

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