関東学院学報 No.45
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14 KANTO GAKUIN NEWS No.45何かありますか。本間 関東学院大学へ進学してから、中村実先生という私の恩師との出会いがありました。その方に師事したことが一番の理由です。中村先生は表面処理研究の権威でもあり、1962年にプラスチック素材に金属被覆する技術(プラスチックめっき)に成功し、世界に先駆けて工業化した人です。「ハイテク、めっきがなければローテク」とよく言っていらっしゃいましたが、その通りで、めっき技術はハイテク技術振興に欠かせないものなのです。私も一緒に研究活動をしていましたが、本当は、親戚の工場へ就職するつもりでいました。しかし、研究室に引きとめて助手として置いてくれたのも中村先生ですから、教員になったきっかけをつくってくれたとも言えます。大変厳しく指導されましたが、そのおかげで今までこの分野でやってこられたのだと感謝しています。平松 しかし、せっかく実用化したプラスチックめっき法については、特許化しなかったと聞きますが、それはなぜですか。本間 その背景には、校訓でもある「人になれ 奉仕せよ」の精神があります。表面処理業界にとって革新的な開発でしたが、この技術が社会に広く役立ってほしいという思いから特許申請は見送られたのです。しかし、開発成果をオープンにしたからこそ、日本中に広まり、日本の技術力向上にも貢献することができました。とはいえ、歴代の学長からは「なぜ特許をとらなかったのか」と叱責を受けてきましたが、私は妥当で立派な判断だったと今でも確信しています。平松 校訓のお話が出ましたが、本間先生にどのような影響を与えてきたのですか。本間 幼稚園の頃からキリスト教に親しんできましたが、キリスト教は人間関係をとても愛情深いものとして捉えます。その中で育まれてきたので、大学に入学する前から人に対する気遣いや思いやる気持ちは強かったと思います。「人になれ 奉仕せよ」という校訓もごく自然に受け入れて、それ以来自分の中で静かに培われています。私が学生の時には、創立者の坂田祐先生もまだいらっしゃいましたから、ご本人の口から校訓のお話も聞きました。そうしたことも大きく影響しているのかもしれません。やはり、キリスト教に限らず、モラル面での教育は必要だと思います。それに、私は大学の寮に2年間いたのですが、食事の時にはお祈りが先でした。身体に校訓は染みついているんです。寮といえば、私は寮生活で人が変わりました。一人っ子なので、それまでちやほやされて育てられていたせいか好き嫌いが激しかったんですね。でも、寮に入ったらそんなことはできません。他人との共同生活の中で、協調性を学びましたね。平松 本間先生が考える「教育」についても教えていただけますか。本間教育を意味するeducateの語源はeduce、つまり「引き出す」という意味です。教育は能力を引き出すことなのです。どんな学生が来ても、情熱さえあれば、私はその人の能力を引き出す自信があります。私のもとで博士課程を無事に終えて今UCI(カリフォルニア大学アーバイン校)に行っている学生がいるのですが、彼が大学院に来た時に、他の先生が、学部生時代の成績は87人中86番目だったと教えてくれました。しかし、私は成績だけで人を評価しません。アドバイスやヒントを与えるだけで非常に伸びる学生もいるんです。私が劣等生だったからこそ、成績だけで評価されてしまうのには抵抗があるのかもしれません。平松 今現在はどのように学生を指導されていますか。本間 必ずやっているのは、朝の9時半から1時間かけて行う英語の勉強会です。教材はTED Talksという、各分野の第一線で活躍する人が行う中身の濃いスピーチです。それをヒアリングさせて、私が解説します。英語くらいはツールとして使えた方がいいですから、学園紛争当時から続けています。今や全世界の産業界で、卒業生は活躍しています。平松 大学という教育機関も生き残るのが大変な時代になりましたよね。本間 だからこそ、私が専門とする表面工学を本学の特色として打ち出そうと思っています。この研究所では世界的にも有名な高井治教授を迎え入れ、研究顧問として神奈川大学の佐藤祐一名誉教授を招聘しました。研究環境のさらなる確立にも腐心しているところです。大学のために一生懸命に営業活動をしている最中ですから、私の肩書は特別栄誉教授なのですが、自分では特別営業教授だと名乗っています(笑)。平松 では、最後に読者の方にメッセージをお願いします。本間 私は70歳になりましたが、大学院を中心とした学生、産業界からの研修生、研究所のスタッフとともに、次世代につながる研究開発を精力的に展開しています。これからの活躍にもぜひ注目しご期待ください。●本間英夫(ほんまひでお)氏 略歴1942年富山県生まれ1968年�関東学院大学大学院工学研究科工業化学専攻修士課程修了。同年、助手着任1982年�大阪府立大学で工学博士の学位授与1987年�関東学院大学工学部教授2012年�関東学院大学特別栄誉教授表面処理の分野、特に「めっき」研究を行い、プラスチックへのめっき方法を全世界に先駆けて工業化し、その後エレクトロニクス実装技術の発展に大きく貢献する。<受賞>表面技術協会論文賞、協会賞などNever Looking Back, “Ever Onward” is His Motto.In this issue, Prof. Hiramatsu of the Department of Electrical, Electronic and Information Engineering of the College of Engineering visited and interviewed Dr. Honma, who is the Director of Materials and Surface Engineering Research Institute, a research institute of the Surface Engineering Department. Dr. Honma also concurrently serves as professor at the Department of Material and Life Science of the College of Engineering. Over the past many years, Dr. Honma has achieved remarkable research results and, now at the age of 70, still retains the great vitality and is engaged in research of various kinds of surface treatment technology using plating.In the interview, Dr. Honma said that he has been familiar with Christianity since he was a kindergarten child and that he developed a sense of consideration and compassion for others ever since he was still quite young. In his university days, he said, he comfortably accepted the school motto, “Be a man, serve the world.”

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