関東学院学報 No.43
11/24

10 KANTO GAKUIN NEWS No.43この人に聞きたいTsutomuNakata震災後の関東六浦<遠野物語>多感な高校生達の貴重な体験全ての始まりは地震直後金沢八景の駅前で見た巡査の姿 3月11日の地震直後、生徒達を心配して金沢八景駅に向かった中田先生は、信号機の代わりに一人の警察官が走り回って交通整理をする姿を目撃した。思わずかけた「お疲れ様」の声に、返ってきた満面の笑顔に「自分も何か役に立ちたい」という思いが強く湧き上がったという。 教職員に呼び掛け、集まった支援物資を積んで宮城の塩竃に向かったのは3月28日。 「現地の人々に元気を与えたいと願って出かけたのですが、元気を頂いたのは逆に私の方でした。自分の思い上がりを非常に恥ずかしく思いました。その後も個人的に東北に通いながら、現地での体験や学びを、教育者として活かす方法はないかと考えるようになったのです。まずは自分が顧問をしているサッカー部の子ども達を現地に連れて行きたいと思いました。」 そして浮上したのが岩手県遠野市である。遠野高校はサッカーの強豪で、個人的にも遠征試合などの縁がある。内陸部で震災の被害を受けず、しかも「遠野まごころネット」というボランティアをまとめる組織も出来上がっていた。 しかし、ボランティア参加は強制であってはならず、合宿とは一線を画す必要があった。また当初は子ども達とサッカーをする活動を考えたが、夏休みは子ども達が不在となり、瓦礫撤去などの作業ニーズが高いことも分かった。こうした事情を部員に話し、賛意を示してくれたことによって、ボランティアを含んだ合宿が実現することになったのである。 さらに保護者や学校の理解、受け入れ側の協力、多くの連絡や準備などを経て、8月9日から5日間、夏休み遠野遠征は実現した。2日間は瓦礫撤去や清掃などの作業を行い、3日目には祭り会場の設営を手伝い祭りに参加、そして2日間が遠征試合という内容だった。 「この合宿で得た生徒達の学びは、想像をはるかに超える大きさでした。被害のあまりの大きさに誰もがショック受け、いくら片づけても終わらない作業に自分を無力と感じ、しかし、小さな行動を積み重ねてつなぐことが大事なのだと気づく。日本内外からボランティアに来る人々や、被災しながらも祭りを盛り上げる現地の人々の強さを見て、人間の素晴らしさを知る。そうした生徒の学びに接する度に胸が詰まりました。生徒達がどれほど恵まれているかを知って、感謝の気持ちを強くしたことも、本当に大きな喜びです。」文化祭、冬休み復興支援ボランティア、さらに春へ風化させず繋いでいく若い力に期待 夏休みの体験は写真などによって文化祭でも発表され、注目を集めた。東北支援のために販売した石巻の缶詰などは、近隣住民の協力もあって完売し、10万円の売り上げを記録。サッカー部以外の生徒達のボランティアへの参加意欲を生み出したのも、彼らの体験が人の心に届いたからだろう。この冬休みには、女子生徒7名を含む24名の生徒と先生3名の一行が、再び遠野を拠点として冬休みにボランティアを行うに至っている。 「今回は仮設住宅によって設備面などの落差が大きいことに驚かされました。復旧に至らない現実に、継続して支援する重要性をみんなが感じたと思います。一方、お茶っこや100人サンタなど、住民サービスの経験を通して、人の心に寄り添うボランティアの意義もひしひしと感じました。」 高校生の瑞々しい若さが被災された方々に与える光はどんなにか明るいことだろうか。その明るさを今後も絶やさず、現地に送り続けたい。「人になれ 奉仕せよ」の校訓の具現化に、そして利他的、愛他的な行動選択ができる子どもの育成に、これからも力を尽くしたいと願う中田努先生の笑顔もまた、明るく輝いて見えた。Mr. Tsutomu NakataKanto Gakuin Mutsuura Junior & Senior High School after the Great East Japan EarthquakePrecious experiences gained by senior high school students during their sensitive and passionate ageFootball team members of Mutsuura Junior & Senior High School along with students in the senior high school visited Tono City in Iwate Prefecture last summer to participate in volunteer activities to help people affected by the earthquake and also to play football games. With a great deal of collaboration from many people, the students helped remove debris and clean affected areas for the first two days of their trip and, on the third day, the students helped set up a stage for a festival. During the following two days, they played away football games. During the recent winter holidays, 24 team members joined three teachers and non-team member students to organize a camp for volunteer activities. Despite many troubles and difficulties, these activities were a success, and all involved recognize these activities would not have been possible without the understanding and cooperation of many people and the passion of Mr. Nakata.昨年の夏、六浦中高サッカー部は高校生の遠征先を岩手県遠野市に定め、被災地支援のボランティア活動3日間、試合2日間の合宿を行った。さらに冬休みには一般生徒も参加したボランティアを実現させている。様々な困難を乗り越えて、ボランティア活動を実現させたものは、多くの人々の理解と協力、そして何より、サッカー部顧問・中田努先生の熱意であった。六浦中学校高等学校体育科 中田努教諭中田 努教諭02

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です