関東学院学報 No.42
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4 KANTO GAKUIN NEWS No.42海辺の惨状を知った眼には、ぬくもりのある校舎も、窓から望む山の緑も、夢のように美しく映った。 続いては道具の錆落とし。避難所生活の中、心筋梗塞で亡くなったという大工さんの道具である。多くのものが失われた中、残された大工道具を大事にしていきたい。願いを聞き、外に座り込んで丁寧に紙やすりをかける学生たちの姿は真剣そのものだった。 午後の作業は自転車の引っ越しと瓦礫処理に分かれた。住民の足となって活躍するはずの自転車をトラックに積み、二往復した仮設住宅は、中瀬地区に残ったわずかな土地に9棟立ち並んでいる。旧住民の数世帯が一足先に入居しており、旧鱒淵小学校からやってきた人との再会があった。「あんた、流されんかったの」と抱き合う姿を目撃し、職員の目にも涙が宿った。山肌に残る遺品の数々に心を痛めて 瓦礫処理班に割り当てられたのは幅約10mの山肌。上から漂着物や瓦礫を下に落とし、分別する作業だ。 「遠目には所々に遺物が見えるだけだったのが、実際は木や草の間に多くの生活用品が残っていました。家具や食器や学用品。その一つひとつに持ち主の思い出があるのですよね」 「でもゴミとして片づけなくては復興が進まない。僕らだって切ないのに、当事者には辛すぎる作業だから、僕らがやれてよかったと思います」 「10mが全然終わらない。そんな山肌がまだ6キロも続いているのです」 「ネックレスとかノートとか、持ち主が特定できそうなものは専用の袋にそっと入れました。見上げた大木のてっぺんに衣類が引っかかっていて・・・。ああ、あんな上まで水が来たのだと、災害の規模の大きさに震えました」 わずか数時間の経験から得た学生たちの「気づき」は、想像をはるかに超える大きさだったようだ。自発的活動を未来につなぐ 3日目は「旧鱒淵小学校避難所退所式」のセレモニーに参加。涙ながらのいくつもの別れの挨拶の後、旅立ちの時間に。新入りの関東学院大学チームも遠慮がちに笑顔でバスを見送った。しかし我々にとって実はここからが住人の方々とのお付き合いの始まりである。 セレモニー会場の掃除を済ませ、後を追って仮設住宅に向かう。直接の対話に一様に緊張していた学生たちも、物資の配布から少しずつ雰囲気に慣れていった。子どもたちやお年寄りとの触れ合いに心を砕くことが出来たのは、中瀬地区の人々の優しさがあってのことなのは言うまでもない。 4日目も仮設での活動と瓦礫撤去に汗を流し、最終日は石巻の被災現場を見学。5日間の活動を無事に終えた学生は様々な感想を寄せている。 「RQの人たちのように、もっと自発的に行動できるようになりたい」 「考えたら言葉に出すこと、人に伝えること、その重要性がよく分かった」 「ミーティングでの話し合いはそれまでの自分では考えもしなかったことばかり。実際に見て知って、色々考えた。この経験は宝になったと思います」 「関東学院のプロジェクトとして、安心して参加できたことも大きい」 発端からプロジェクト実現までには、大学内部でも実に多くの苦労があった。熱意に支えられた努力は、学生の目に宿った強い光に報われている。 「人になれ 奉仕せよ」 その深い意味を、身を持って知ることができることに感謝しつつ、数年単位の長いスパンで、関東学院は東北と関わっていきたい。建学の精神の具現化を願って関東学院大学宗教主任松田和憲教授 私は宮城県の出身で、この度の震災は衝撃と不安に苛まれました。幸い家族はみな無事でしたが、居ても立ってもおられず、3月末には中学校高等学校の佐藤洋晴宗教主任と共に、石巻・女川・陸前高田を巡りました。そしてこの時、関東学院の柱である「奉仕の精神」を具現化したいと、強く願ったのです。 ボランティア募集には予想を超える学生の応募がありました。自由度の高い1・2年生より3・4年生を多少優先しましたが、全学部、全学年がバランスよく交わる編成を目指して選考しております。現地の方々の多大なる協力と本学院スタッフの熱意によって実現したこのプロジェクト。経験者がその意義を伝え、未来に繋いでいくことを願ってやみません。Report: Disaster Volunteers: Students, Faculty and Administration members of Kanto Gakuin Responding to the Great East Japan EarthquakeIn the wake of the disaster, Kanto Gakuin formed a team of “Disaster Relief Volunteer Project” with the aim of providing relief and support to those affected in Minamisanriku Town in Miyagi Prefecture. On August 2, the first group consisting of 9 students and six teachers left for Minamisanriku Town. On August 3, after receiving a lecture at the former Masubuchi Elementary School in Tome City, the volunteers cleaned the inside of the school building. Then they separated into groups to remove rust from tools, move bicycles to other places, and clear rubble.On the third day, they joined a farewell ceremony for those who moved from the evacuation center and sent them off with smiles. After cleaning the place where the ceremony was held, they visited temporary housing units to talk with children and the senior citizens there. On the fourth day, the volunteers continued in the removal of the rubble and other relief activities. On the last day, they visited affected places in the Ishinomaki area. Kanto Gakuin hopes to be involved in volunteer activities in the Tohoku region over a long period of time in the coming years. 人々の毎日が少しでも楽になるように。全ての作業に願いを込めて学生の一人ひとりに出来ることはたとえ微力でも、一つひとつ真剣に向き合い、記憶する意味は深い

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