関東学院学報 No.40
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Kiichiro Kawai就任挨拶六浦中学校・高等学校 校長Inaugural addressKiichiro Kawai, Principal, Mutsuura Junior & Senior High SchoolStudents say “Good morning, Mr. Kawai” and I respond “Good morning.” This exchange of morning greetings gives me energy for the day. These moments are when I truly appreciate being at this school.While it is important to have the same perspectives as students, educators are also expected to face their students as responsible adults. Maintaining a balance between humbleness and leadership is important. I hope to find out, together with other teachers, how we should live as human beings through daily interactions with our students.However, I have wondered for sometime if I have a strong leadership ability to do so. I came upon the phrase “Therefore do not worry about tomorrow, for tomorrow will worry about itself. Each day has enough trouble of its own.” in the Gospel according to Matthew. Then I realized that I should just continue what I have been doing. Now I feel and receive the grace of God in the wind blowing through Mutsuura.河合輝一郎金沢八景駅から六浦中学校・高等学校に向かう15分の風景は、潮の香に包まれている。山育ちの自分の知っている香りとは異なるが、今まで忘れていた人間の温もりを感じさせる懐かしい匂いである。自分を追い越していく背の高い坊主頭の生徒たちが「校長先生、おはようございます」と元気な声をかけていく。「ああ、おはよう」。この一声だ。この一声が今日一日の貴重なエネルギーになる。主イエス・キリストが人々に声をかけることで奇跡が起こったように、自分の心の中に大きなうねりが生じてくる。六浦に来てよかったと思う瞬間でもある。 昨年の12月に始まった関東学院六浦中学校・高等学校校長の話は、いろいろな意味で今までの教員としての自分自身を見つめなおすよい機会になった。40年前、関東学院に来てはじめて主イエス・キリストと出会った。60年代後半から始まっていた学生紛争の嵐の中で、本来あるべき人間の姿を求めていた自分にとって、この出会い、そして「人になれ 奉仕せよ」の言葉は、自分自身の生き方を根本から覆すものであった。「人間の尊厳を取り戻し、人間らしく生きるために闘わなければならない」。運動家は何かというとそれを口にしていた。そしてそれは間違ってはいない言葉ではあるが、結果的には人を傷つけ、人を裁くことで自分自身をも傷つけていた。生徒とのつながりを通して、本来あるべき教育に携わっていきたい、という思いで教員になった自分ではあったが、そこにあったのは、思い上がりにも似た正義感と英雄主義であった。「こうあるべきだ」という自分の勝手な思い込みだけでは、生徒たちとつながることはできない。生徒と同じ目線に立つことは大切なことだが、責任あるひとりの大人として、生徒と向き合うこともまた教育者には求められている。謙虚さと指導力、このバランスが大切なのだ。これは何も教育に限られたことではないが、お山の大将になりがちな私たちにとって、常に意識していなければならない事柄である。 一人の教員として、今までは自分だけの問題として受け止めていればよかった。しかし、学校の責任者となる場合は、そういうわけにはいかない。学校としての教育目標はいうまでもないが、具体的な生徒たちとの接点のなかで、人としての本来あるべき生き方を、先生方とともに求めていかなければならないからだ。様々な教育理念を持っている先生方と真剣に議論していくとき、意見の食い違いも当然予想される。そこで問われるのがリーダーシップである。はたしてこの自分にそれだけの力があるのか、それができるのか。自問自答が続いた。その時、マタイによる福音書6章の記事が目にとまった。「思い悩むな。それはみな、異邦人が切に求めているものだ。あなたがたの天の父は、これらのものがみなあなたがたに必要なことをご存じである。なによりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる。だから、明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である。」 その通りなのだ。今まで自分が関東学院中学校高等学校でやってきたことそのままをやっていけばいいのだ。天の父なる神様は、今までも十分とはいえないそういう自分を支えてくれたではないか。そのことを信じて自分の持っているものすべてを出していけばいい。そう思った。 平潟の海に輝く日の光、潮の香り。「空の鳥、野の花を注意して見なさい」と言うイエスの言葉ではないが、六浦に吹く風のなかに、神様のご恩寵を感じている。KANTO GAKUIN NEWS No.40 11略歴(平成22年4月1日現在)河合 輝一郎(かわい・きいちろう)【学歴】 昭和42年3月 駒澤大学高等学校卒業 昭和46年3月 國學院大學文学部文学科卒業【職歴】 昭和46年4月 関東学院中学校高等学校教諭(平成22年3月迄) 平成19年4月 関東学院中学校教頭(平成22年3月迄) 平成22年4月 関東学院六浦中学校・高等学校校長 平成22年4月 学校法人関東学院理事・評議員

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