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学院長メッセージ Part Ⅱ 『ポスト・コロナに向けて=<利己主義>から<利他主義>への方向転換』

 新型コロナウイルスの脅威が世界を覆い尽くしてから四か月目を迎え、漠とした形ではあるが、近い将来に収束するとの希望的観測が行きかう流れと相前後して、その後世界はどこに向って歩み出すのか、また、日本の今後はどうなるのか等々の問いや疑問が取り沙汰され、各分野の専門家や識者たちが未来像を呈示しています。しかし、このテーマは一部の専門家に任せるのではなく、21世紀に生きるわたしたち一人ひとりに向けられた問いでもありますから、今後の世界の動向や日本の歩むべき方向、さらには、日本のキリスト教学校の今後について共に考えることは重要な事柄であると思います。昨今のわたしは、キリスト教学校の一つである、関東学院の教学の責任を担う者として、コロナ禍の影響で時代が大きく変化しようとする中で、キリスト教学校として、この状況下で為すべきことは何かとの問いの前に立ち竦んでおりました。そんな問いを抱えながらゴールデンウイークに突入し、何処にも行けずに‘Stay Home’を励行し、早朝の散歩と妻と食事をする時間以外は、最近のコロナ禍に関する書物・論評等を読み耽り、録画した「緊急会談」を観たり、新聞の「社説」や各分野の専門家たちの論説等に目を通すことで、今後への何らかの示唆や洞察を見出したいと願ったことです。以下の拙文は、わたし自身が印象に残った知見や論説を取り上げ、今後のキリスト教学校の存在意味と使命についての私見を書き記したものです。この問いは極めて根本的な問いであり、容易に答えが出てくる事柄でないことは承知していますが、これら重要かつ喫緊の問題に対する見解を発信させて頂くことによってデスカッションの輪が拡がることを願い、投稿させて頂きました。

 今回は、最近眼に触れた多くの学者・識者の論説や言及の中で、特に印象に残ったフランスの思想家・作家のジャック・アタリ氏の主張を紹介したいと思います。彼は1981年から1991年にかけてミッテラン大統領の政治顧問を務めたほか、歴代の大統領に時宜に適った提言を行い、政治・経済・文化の分野で、フランスのみならず世界のグローバル思想家として重要な役割を果たし、数ある著作の中でも『2030年ジャック・アタリの未来予測』(林昌宏訳、プレジデント社、2017年)は日本でも読者の多い著名な作家です。この紙面で取り上げたいのは、4月11日夜のETV特集「緊急対談=パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」におけるアタリ氏の発言内容についてです。これは、コロナ禍により世界がパラダイム転換を迫られる中で、海外の著名な学者、有識者から意見を聴取すると言った番組で、道傳愛子キャスターが司会を務め、アメリカの国際政治学者イアン・ブレマー氏、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏、そして、ジャック・アタリ氏と順次、見解を聞いていくプログラムで、いずれの識者からも大変有益な示唆を与えられました。他の二人について論ずることは別の機会に譲って、今回はアタリ氏の提言に注目してみたいと思います。彼の発言の中で、特に感銘を受けた主張は、道傳氏の「このパンデミックの中で差別や分断が以前より目立ってきているのではないかと懸念していますが…」との問いに対して、アタリ氏は「パンデミックの中では、連帯のルールが破られ、利己主義が横行し、経済的な世界においても孤立主義が高まる危険性が強く、排外主義的なポピュリズムが台頭している。そうした中で、バランスの取れた連帯の輪を拡げる必要性があるが、今回の危機に直面して、人類に対して「利他主義(Altruism)」への転換を求めたい。…パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ『他者のために生きる』という人間の本質に立ち返らねばならない。協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきだ。利他主義という理想への転換こそが人類サバイバルのカギである」と語り、さらに「自らが提唱する利他主義とは合理的利己主義であり、自らが感染の脅威に晒されないためには他人の感染を確実に防ぐ必要がある。利他的であることは、ひいては自分の利益にもなることで、他の国々が感染しないことも自国の利益になる。日本の場合も世界の国々が栄えていれば、市場が拡大し、長期的にみて国益につながります」と語っています。また、道傳氏が「利他主義とは他者の利益のためにすべてを犠牲にすることではなく、他者を守ることこそが我が身を守ることであり、家族、コミュニティ、国家、そして人類の利益にも繋がりますね」と問うたのに対し、アタリ氏は「その通りです。利他主義とは最も合理的で利己主義的な行動なのです」と答えています。

対談はさらに続きますが、今回はこれぐらいにしたいと思います。わたしは、アタリ氏が「世界が分断、孤立、排外へと移行する中で、利己主義から利他主義への転換こそが、人類が生き残るための唯一のカギである」と強調している点に共感を覚えました。ここで、アタリ氏が言わんとする「利己主義」と「利他主義」との関係性についてはもっと丹念に論ずる必要がありますが、キリスト教の考え方において、人間の罪の実相は「利己主義(Egoism)」にあり、その超克はいかにして可能かとの問いは根本的(Fundamental)な命題です。また、その「利己主義」を超克する事柄と、「他者のために生きる」生き方へと転ずる「利他主義」とは裏表の事柄であることを受け止める必要があります。いずれにせよ「利己主義」「利他主義」を巡って、活発な議論が生まれてくるような予感が致します。この辺りについては、次回に述べさせて頂きたいと思います。

最後に、わたしは今回、アタリ氏をはじめとする識者たちの提言を聞き、色々と思い巡らす機会を得て、キリスト教学校には今後も大切な使命が残されていると痛感しました。時代が大きく変わろうとも、聖書が語る普遍的な真理(隣人愛、他者のために生きる、自己中心的生き方からの解放、平和を希求する等々)について、学生・生徒・児童に愛情と自信を持って語ることによって、双方向的な対話が生まれていくものと信じています。日本各地にあるキリスト教学校が、こうした困難な時代にこそ、主から託された使命があることを覚え、共に前に向って体を伸ばして参りたいと願っています。それぞれのキリスト教学校の歩みの上に、主の守りと祝福をお祈りいたします。

2020年5月18日
関東学院 学院長 松田 和憲

投稿日時:2020-5-18 11:00:00